SAKE Streetにて、企画・執筆を担当している特集「美味しい日本酒の裏側 酒蔵の労働環境問題」がスタート。第1回の記事が公開されました。
LINK: 「正月挟んで200連勤」「有給とるとボーナス減る」蔵人アンケート結果を公開 – 美味しい日本酒の裏側 酒蔵の労働環境問題(1)
今回の特集は、これまで業界の中ではしばしば問題視されながらも、メディアであまりスポットが当てられなかった蔵人の労働環境について、
①課題を抽出(アンケート/座談会)
②解決策を提示(ホワイト酒蔵の事例紹介/社会保険労務士へのインタビュー)
というステップで、改善方法を提案するというものです(全4回)。なお、SAKE Streetさんのほうで窓口を設置し、社労士さんへの相談なども受け付けるそうです。
第1回は全国の蔵人を対象にアンケートを実施し、その結果を「データ」と「コメント」としてまとめています。
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今回の記事が公開されてから、ネットではさまざまな反応をいただきました。
多いのは、業界関係者を含め、「いままでタブー視されていた問題を取り上げてくれてありがとう」という、好意的なご意見です。みなさん、問題があることは認識しながらも、なかなかそれについて議論することができなかったから、明文化したことを評価してくださったのかなという印象でした。
おおむね肯定的に受け止めつつも、「ちゃんと改善しようとしている酒蔵もあるから、そのことにも触れてほしい」とおっしゃる方もいました。シリーズ中でホワイト酒蔵の取り組みを紹介するつもりではいましたが、それを伝えずに今回の記事だけを発表してしまうと、「業界全体が悪い!」と主張しているようにとらえられてしまうのはご尤もだと思い、導入文にその旨を追記しました。
一方で、厳しいご意見もいただきました。
今回扱っているデータは、「日本酒業界はブラックだ」というバイアスに基づいて回収・集計されたものであり、統計学的に信頼性があるとはいえず、質的には有効である(コメント部分はいい)とはいえ、量的には無効である(データ化するには根拠として不十分)、というものです。
そもそも今回のアンケートは、当初目標としていた100件に及ばず、59件の回答しか集まりませんでした。これにはさまざまな理由があるとは思うのですが(第2回の座談会でも議論しています)、そのひとつとして、「『蔵人を救え』という謳い文句でアンケートをしていたのがよくなかったのではないか」というご指摘がありました。
たくさんの人の声を集めたいという思いから、キャッチーな、というか、やや煽り気味のコピーを使ってしまったわけですが、それによって集まる情報に偏向が生じることへの自覚が低かったと反省しています。
本来は、59件の回答を読んだ際に、「これだけの情報からは信頼性のあるデータは取れない」と判断し、量的な提案(グラフなどの作成)を諦めて質的な記事(コメントのみから作成)に終始すべきだったのでしょう。
しかし、「集まった回答からなんとか導き出す」という方向に動いてしまった。これは、エンタメ系のアンケートなどではしばしば見られる手法ですが、少なくとも、本質的な問題の解決を目的としたジャーナリスティックな記事ではすべきことではありません。
なぜこのような、いわば「偏向報道」的な行動に及んでしまったのかというと、「業界の中に悪がある、それをなんとかしなければ」という盲目的な愛と視野の狭さが私の無意識を巣食っているからなのだと思います。この「盲目的な愛」「視野の狭さ」こそ、今回の特集の中で問題視し取り上げているものであるにもかかわらず。
今回集まったアンケート回答から、「こういう問題がある」と述べるのはいい。しかし、「◯割の人がこのような問題を抱えている」といった、客観性のあるデータのように仕立て上げるのは、ダメ。
今回の企画は、実際の現場で悩みを抱える蔵人さんからの相談によって生まれたものだったからこそ、書き手に「バイアス」が生まれてしまった、と感じています。
本当に問題を解決したいのであれば、客観的でなくてはならない。集まってきたものも、確かにファクトではあります。その線引きができていなかったのは、私の不勉強です(今回の件を受けて、統計学の本を買いました)。本当に愛しているなら、救いたいなら、現状を、事実を、どれだけフェアに見つめられているか、というのは、常に立ち返らなければならないところです。
そのような大きな反省を踏まえ、この特集をやり切ります。
第2回では、蔵人4名による匿名の座談会を実施し、第1回で浮上した課題について、現場の視点で議論しあいました。第3回では、経営者の視点にフィーチャーします。経営者の目線から、なぜその問題が起こるのかを考え、実際に改善に成功した企業に、解決へつながるヒントをお聞きします。第4回では、社労士さんにインタビューをおこない、業界外の法律専門家の立場から解決策を提案します。
今回の記事についてご意見をくださったみなさまに感謝しています。議論の中心にメディアがあり、そこから現実的な問題を解決していくうねりが生まれてゆく。そうあるためのあり方を見直す機会をいただくことができました。次回以降の記事で挽回し、本特集を必ず意義のあるものにできればと思います。